博多「場」文化通信 博多ば日記

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20200403Friday

博多を根っこから支えるのはやっぱり、博多の女

博多 当主女子。

九州男子、山笠男を超えてゆく。
今、自らが先頭に立ち、「当主」として家業を担う女たち、
博多のパワーウーマンから目が離せない!

 
 
 
 
 

vol.

01

蒲鉾

西門蒲鉾/5代目当主

野田彩代さん

 

流れを継ぎ、新味を練る。

大正2年創業、100年以上の歴史を紡ぐ老舗『西門蒲鉾』。その看板を背負う野田彩代さんは、5代目という肩書きの重さをみじんも感じさせないような、愛らしく明るい笑顔の持ち主だ。素材と水を厳選し、昔ながらの製法でひとつ一つ手作りすることにこだわる。職人気質を体現するこの世界に、彩代さんが飛び込んだのは25歳の時。当時、従業員で働いていた職人さんは幼い頃から家族のように接してきてくれた人たち。だが、仕事となると話しは別だ。当初3年間は洗い物に徹し、ひたすらその技を目で見て覚えていったという。そのうち自らも野菜ソムリエの資格を取得すると、有機野菜の新しい練り物も考案するように。5代目に就任後はその感性を生かし、オリジナルの蒲鉾ケーキや可愛い“キャラ蒲鉾”といった新作を次々に生み出してきた。
「父が、二人姉妹の私たちに“継いで欲しい”と言ったことは一度もありません。でも常連さんの<これを食べんと元気にならん>というお言葉を聞いているうちに、この味を途絶えさせたくないという想いが強くなって」。自身も今では一男一女の母。優しい母の顔と職人のまなざしが共存している。

 

 

彩代さんの奮闘ぶりを常に温かく見守ってくれたのが父の上田啓蔵さん。
「実は、父こそアイデアマンなんです。一緒に新作を考え、後押しもしてくれる。とても尊敬しています」。

 

扇や梅、鯛などをあしらった、お祝いなどに最適な細工蒲鉾や、
月替わりのかわいい蒲鉾も登場する。

キノコやゴボウ、生姜などいろいろな野菜を練りこんだ、
オリジナルのつみれシリーズ(350円〜)。

 

 

 

 

vol.

02

博多水引

ながさわ結納店/2代目当主

長澤宏美さん

 

心を贈り、縁を紡ぐ。

父は結納品の水引職人、長澤宏昭氏。「ながさわ結納店」の一人娘として生まれた宏美さんは、大学の芸術学部を卒業後、グラフィックデザイナーとなった。その後、東京のデザイン事務所や大手広告代理店で活躍し、様々なプロジェクトを手掛ける中で多くの経験とセンスを培っていったという。博多へ戻った約10年前。時代の流れと共に「このまま水引工芸もなくなってしまうのでは…」と不安を感じたという。
しかしここからが、宏美さんの本領発揮。「だったら日常で使える水引を作ってみよう」と、梅モチーフの水引アクセを試作。知人から「買いたい!」とのリクエストが続々と寄せられ、販売をスタートしたのだ。その後も新アイテムを次々と考案、水引の概念にとらわれない配色、大胆かつ美しいデザインは、アートと工芸の両方を兼ね備える作品として瞬く間に話題となった。
「最初は伝統にこだわる父とよくぶつかりました。私は物事をじっくりと形にしていくタイプ。新しいものを創り出すことが好きなんです」。その思いは、2019年に装い新たにオープンした店舗にも込められている。宏美さんの新たな旅が再び始まった。

 

 

「水引のように人の縁をつなぐ場所にしたい。 そして博多水引を、博多人形や博多織と並ぶ伝統工芸に昇華させたい」と、
長澤さんの情熱はとどまることを知らない。
(※画像は取材時、新店開業前の仮店舗にて)

 

「ご縁や幸せを結び留めておく」という意味を持つ水引は、
ご祝儀袋などのほか結納の装飾品としても用いられてきた。
ブートニール(3300円)。博多阪急や福岡三越などで購入可。

金色は「成功成就」、茶「土が山になり大成する」、
青色は「身を守る、健康」など、
使う色にも、ひとつ一つ意味があるのだとか。

 

 

 

 

 

vol.

03

曲物

博多曲物「玉樹」/18代目当主

柴田玉樹さん

 

慣に挑み、真価を得る。

その昔、祭具から生活用品まで、庶民の暮らしと切り離せない存在だった曲物。柴田家は400年以上の長きに渡り「筥崎宮」に奉仕する家筋として、博多で曲物店を営んできた職人の名家だ。
玉樹さんも幼い頃から作業場を手伝っていたが、18歳の時に母が亡くなると、家事の傍ら絵付けをこなし、気づけば姉と弟、三人兄弟の中で最も父に近い存在となり、手仕事の技も自然に身についていた。しかし跡を継ぐのはあくまで男。玉樹さんはそれも理解の上、結婚後も家業のサポートに徹し続ける。その後に父の多額の借金で会社が倒産し、その心労から父は肺がんに倒れ急逝。跡取りを拒んだ弟を前に、玉樹さんは言った。「なら私がやる!」。ゼロではない、マイナスからのスタートであった。
「女になにができるとや」。周囲の風は冷たかったが、父の四十九日法要で出した一輪挿しの見事な仕上がりに文句を言うものはいなかったそうだ。それから26年。今では注文から1年以上待ちというほど人気の玉樹さんの曲物。波乱に満ちた人生だが、「苦労したとは思っていない」と玉樹さんは快活に笑う。

 

 

工房での作業のかたわら『博多町家ふるさと館』で週に一日、絵付けの実演を行い、博多曲物の普及にも努めている。

 

博多曲物には主に杉を使用。時を越えた「用の美」が、
今、本物志向の人たちの心を掴んでいる。

曲物づくりの要とも言える曲げ作業。
巻木に柔らかくなった側板をまきつけていく。

 

Information

  • 西門蒲鉾本店

    ●所在地/〒812-0036 福岡市博多区上呉服町5-172
    ●電話番号/092-291-2466
    ●営業時間/9:30~18:30 ※
    ●休み/火曜・第2日曜 ※

    ※2020年4月9日現在、当面の間、下記に変更
    営業時間/10:30~17:30
    休み/毎週日曜

  • 博多水引(有)ながさわ結納店

    ●所在地/〒812-0036 福岡市博多区上呉服町13-231
    ●電話番号/092-271-0813
    ●営業時間/10:00~18:00、日祝日10:00~17:00
    ●休み/月曜

  • 博多曲物 玉樹

    ●所在地/〒811-2232 福岡県粕屋郡志免町別府西2-2-16
    ●電話番号/092-935-5056
    ●営業時間/10:00~17:30、日祝日10:00~18:00
    ●休み/土日祝

  • 博多町家 ふるさと館

    ●所在地/〒812-0039 福岡市博多区冷泉町6-10
    ●電話番号/092-281-7761
    ●営業時間/11月~4月 10:00~18:00、5月~10月9:00~17:00
    ●休み/月1回 ※ウェブサイトで確認を

    【博多曲物実演(絵付け)】
    毎週木曜
    10:00~12:00 / 14:00~16:00

2020.04.03 Friday

博多を根っこから支えるのはやっぱり、博多の女

博多 当主女子。