博多「場」文化通信 博多ば日記
20201104Wednesday
vol.
01
博多織手機技能修士
深堀由美子さん
“異才”の、開花。博多織の新しい世界
博多織クリエイターやプロデューサーを育成する学校『博多デベロップメントカレッジ』卒業生の深堀由美子さん。博多織手機技能修士として2018年から活動を始めた、いわば“新人”だが、最近の「博多水引」デザイナー・長澤宏美さんとのコラボレーションで、今、静かに注目を集めている人物だ。
理由は「色」。深堀さんが紡ぐ絹糸の美しい色合わせに長澤さんが惚れ込み、博多織×博多水引の新境地が生まれたのは、2019年のこと。深堀さんの博多織に映える博多水引のインテリアボードは、糸・紐それぞれの素材の違いを乗り越え、色・艶・質感がぴたりと符合するから不思議だ。
そもそも、博多織を現代の暮らしに生かすさまざまなデザイン開発は、今の博多では日常茶飯事だが、深堀さんが創り出すアクセサリーやバッグといったファッションパーツ、インテリア小物は、かなり異才。たとえば、博多織のくるみボタンとフランス製のシェルボタンのマッチングは、ただでさえ“和色”を纏っているのに、どこか西洋アンティークのニュアンスを醸し出している。
バッグにしても、<洋装にも和装にも合うデザイン>を唄う商品は数あれど、実際なかなか“使える”ものにはお目にかかれないのが現実。しかし、深堀さんのこのパーティーバッグはどうだろう!和式洋式、どちらのパーティーシーンにも投入できる稀有な見栄えだ。
「博多織は主に経糸(たていと)で色が出るのですが、私は緯糸(よこいと)で色を表現することが多いですね」と、深堀さん。長年のOL生活を経て帰郷、ようやく辿り着いた人生の果実。ずっと好きだった世界の中で花開く喜びを、今、しっかりと噛み締めている。

深堀さんの手から生み出される美しい色の波

ブローチは帯留としても、帯留はペンダントトップとしても使えるものだとか。粋でスタイリッシュな世界観の「博多織のアクセサリー」は、東京大阪の有名百貨店でも人気! ・シェルブローチ/各8,580円

・イヤリング/8,580円〜10,780円
・ピアス/8,580円〜10,780円
・リング/7,920円

・タッセル付マカロンブローチ/各2,420円

・ハンドバッグ/価格未定
※価格はすべて「税込」

博多水引×博多織のインテリアボード
vol.
02
博多人形師
松尾吉将さん
“先駆”の、新境地。ある博多人形師の今。
博多人形は、黒田長政の筑前入国(1600年)に伴い多くの職人が集められたことに始まる。その職人たちが生んだ素焼き人形が、現在の博多人形の礎ともいわれているからだ。江戸時代後半には名工たちも活躍、明治には写実的な意匠が取り入れられ、国際的な博覧会(パリなど)で高い評価を受けると、日本を代表する美術工芸として「博多人形」の名で知られるようになった。そして、昭和51年、ついに国の伝統的工芸品に指定されたのだ。
さて、現在。“床の間”の無い、現代の住宅事情の中、博多人形は“居場所”を探すように、新しい視座をもった個性派人形師の手により、アパートやマンション、ホテルや店舗などで少しずつ新境地を広げたように思う。
博多人形師・松尾吉将さんも、その生みの親の一人。彼のもとに集まるのは、イラストレーターやファッションやプロダクトデザイン界のプロデューサー、はたまた“落語家(!)”といった、いわゆる“住む世界”を異にする精鋭ばかり。父の背中を追い、若手人形師の登竜門といわれる「与一賞」特選、翌年「与一賞」など受賞歴も多数という実力派だ。
地元九州発のアパレルメーカー『ティグルブロカンテ』のオリジナル博多人形「ナッティ」は有名だが、それももう20年も前の話。つまり、すでに20年もの昔から、伝統産業の世界に風穴を開けてきた一人と言えるだろう。
2018年には、あの「ムーミン」の博多人形を、地元福岡のアーティスト集団『ハイタイド』とコラボ。世界でもっとも表現力豊かといわれる博多人形を、<ハイタイド×400年の伝統>と定め、その実現のパートナーに松尾さんを抜擢。松尾さんとの出会いにより、「ムーミンの博多人形」の製作は俄然、加速したという。
また、全国で人気沸騰中のイラストレーター「KYNE」氏(福岡発)ともコラボ。松尾さんの新境地は今なお広がり続けている。現在、コロナ禍においては「アマビエ」人形を制作するほか、「粘土ライヴ」といった製作過程の動画公開でも話題に。
松尾さんの魅力は、その「解釈」にあるように思う。たとえば、KYNE氏が描くイラストは2Dだが、博多人形にする=その3D化だ。見る角度が違えばKYNE氏の持ち味(表情)のニュアンスも変わるのだから難題。2Dで得た視覚の解釈を間違えてはならないのだ。結果、KYNE氏自身も納得ずくの仕上がりとなった。ムーミンもまた然りである。
ところが、だ。松尾さんは、“一周回って”、今度は<伝統×伝統>に挑みたいという。その第一弾として始めたのが、城島瓦とのコラボレーションだ。博多人形の色つけ、焼き物の釉薬。その境界線の融合をどこまで追いかけられるか。松尾さんの挑戦からますます目が離せない。

『TIGRE BROCANTE』TENKUMARU「ナッティー博多人形」初代(非売品)

『ハイタイド』の「ムーミンの博多人形」

「KYNE博多人形」も『ハイタイド』より

『ハイタイド』の「ムーミンの博多人形」
「KYNE博多人形」も『ハイタイド』より

アマビエ人形(3300円)

国民的大人気漫画・アニメ「ONE PIECE(ワンピース)」の全世界から総勢200名のアーティストが参加するアートプロジェクト「BUSTERCALL=ONE PIECE展」が、 横浜駅直通の複合型体験エンターテインメントビル「ASOBUILD」で11/20〜12/27にて開催される。 この企画展に松尾さんの作品も並ぶことに!選んだキャラクターは「ナミ」。「ナミの持つ魅力を博多人形らしさに変換(解釈)することを心がけました」と、松尾さん(作品は非売品)
©️尾田栄一郎/集英社・フジテレビ・東映アニメーション
vol.
03
伝統工芸クリエイター
林舞さん
“異端”の、独歩。博多張子から始まった新潮流
林舞さん。伝統工芸家?デザイナー?クリエイター?彼女の生業を説明するにはかなり苦労を要する。そもそも、7年ほど前、相棒と一緒に『博多商会』なるデザインユニットを旗揚げした際には、博多張子の職人・三浦隆さんに師事。自ら伝統工芸の技術会得に精進したはずだ。林さんが創った博多張子の中でユニークだったのは、なんと“パン”!この時すでに、伝統工芸の世界に新しい舞台を拓く人、そう感じていた気がする。
現在は、『博多商会』の活動を休眠。2018年に新しく『日日堂』を立ち上げた。その看板には、
物語のあるみやげものづくり。
縫い 染め デザイン イラスト
と、ある。新しい博多張子の世界を見せてくれた林さんは、その文脈をちゃんと残しつつ、枠にとらわれない伝統工芸活動を繰り広げているようだ。小さなそのアトリエに並ぶアイテムのメインは、やはり博多張子である(三浦氏作)。が、ポップカラーの色合いにディレクションしたのは、林さんだ。
特筆すべきは「博多おはじき」にインスピレーションを得て展開した「博多ボタン」だ。博多人形師・田中勇気さん作、博多人形と同じ素材で作った福岡ならではの素焼きのボタンだそう。モチーフには博多張子、にわか面、華皿(博多織の意匠)など、博多伝統工芸品の錚々たる顔ぶれ!糸を通してバッグの留め具や洋服のボタンに。床の間の博多人形がたちまち身につける装飾品となる。
このほかにも、キッチュでユニークな博多弁の鉛筆や、「博多札キーホルダー(福岡名物のあれこれを彫刻)」といった商品開発はイラストレーターでもある林さんのセンス全開!
最後に。現在、博多織職人でもある夫・尾畑圭祐さんが、香蘭女子短期大学の講師として、日日堂と「箱崎縞」を共同制作しているという。箱崎縞とは、福岡市・箱崎地区で戦前まで盛んに生産されていた幻の織物。現存はわずか、謎のベールに包まれたその織物で、未来、「箱崎縞の衣装ブランドを創りたい」というのが、林さんの目下の夢だという。写真の洋服はその未来への先行投資として立ち上げたオリジナルブランド<日日染縫(にちにちせんほう)>だ。
やはりどこまでいっても「肩書き」に困る林さんだ。けれども、起点は博多張子だ。今後も「博多の伝統工芸品を“伝える人”」であることには、100%間違いない!

博多張子のだるまには、名入れサービスも

博多張子(だるま/2783円)は漫画の解説書付き。
こんなパッケージになると俄然手に取りたくなる!

博多ボタン(1個550円)

<日日染縫>の服

クスッと笑える博多土産たち

日日堂は現在、博多区千代に自宅兼アトリエとして在るが、来春には御供所町へ移転の予定

博多張子の絵付け体験や、博多ボタンのワークショップも不定期開催中!

これが幻の織物「箱崎縞」の残存部分だ!
Information
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HAKATAORI Fdot.
●所在地/福岡市中央区薬院4-10-40
●電話番号/090-8643-4535
※商品販売はイベント時、もしくは問合せにて対応